研究者にとって論文を書くというのは、とても重要なことであり、研究を世に報告するための作業です。
論文を書く作業は想像以上に時間がかかり、地味であり、根気のいる作業です。
だからこそ、最初に自分で書いた論文は自分の中でも印象深いものになります。
僕自身も、M1で指導教員の指導のもと、一から自分で論文を書くことを経験しました。
分野にもよりますが、生物学の分野において、修士の学生で、自分で論文の文章を書くことは非常に珍しいことです。
そもそも論文すら出ないというのが普通ですから。
レアな経験をさせてもらったことに感謝するとともに、その時の気持ちを忘れないために体験をここに綴りたいと思います。
論文を書くタイムスパン
生物学の分野では、論文を書こうと思ってから、実際に論文が掲載されるまでに大体一年かかります。
論文の形式や規模感にもよりけりですが、化学や工学の分野と大きく異なるのは、論文の内容の多さだと体感しています。
物質の発見やタンパク質の発見とは異なり、僕が研究している神経行動学という分野は、「この神経がこの行動にこの様に関わっている」というように証明するため、図の数(一つの図の中にグラフが複数あります。)が5を超えることはザラにあります。
だからこそ、それだけのデータを集め、論文を書き、出版されるまでには他の分野以上に時間がかかると言われています。
論文投稿までにかかる大体のステップを下に書きます。
- 原稿を書く(1ヶ月~1年以上) 原稿を書くのはさまざまなことが起こりうるため、実際に順調に行かないことも多々あります。
- 原稿を人に見てもらう(1ヶ月~3ヶ月) あったりなかったりですが、お世話になっているその研究には関わっていない人に、読んで内容がわかるかを見てもらう。
- 英語の校正(約1ヶ月)
- 論文投稿!!!(Submission) (2日~4ヶ月以上) リジェクトは2日で帰ってきたりすることもあり、逆にレビューに回ると数ヶ月音沙汰ないこともあるそうです。
- リバイス対応 (1ヶ月~6ヶ月) レビュワーからコメントをもらい、足りないデータや内容の修正を行い、再度ジャーナルに送り直します。リビジョンはメジャーリビジョンとマイナーリビジョンとあり、論文の大きな構成が変わる様なことを言われることも多々あります。
- アクセプト!!!(Accept) リバイスの対応ができ、ジャーナルからOKが出たら無事アクセプトとなります。ここまで行ったらやっと成果として認められます。
- 論文掲載に向け体裁を整える(1週間~1ヶ月) 論文がネットや雑誌に掲載されるための体裁の整えなどの最後の仕上げ作業になります。
- 論文の出版、プレスリリースの作成などなど、、、、 アクセプト後は色々なことがどんどん起こり、忙しくなります。
論文を書いて、ボタンを押せば出版されるわけではなく、論文はさまざまな人に評価され、論文が論理的に正しいかを第三者の目で見て、認められ、世の中に出版されます。
僕の体験談
まず初めに、出版された論文がこちらです。
4年生で卒論発表を行ったあと、2月の終わり頃に指導教員から論文を書きましょうと提案されました。
そして、3月から論文を書き始め、12月にジャーナル誌のiScienceに投稿、4月に正式にアクセプトされました。
論文を書こうとなってからちょうど一年ほど経って出版されるという、非常に順調な論文投稿でした。
論文を書こうと言われた3月は非常に嬉しく、なるべく早く書いてやろうと意気込んでいました。
ただ、書いてきてくださいと言われるが、どの様に書けばいいのか全くわからず、とりあえず論文を調べて見様見真似で自分の内容を書いていきました。
しかし、僕は英語が苦手であるのも相まって、わからないから修正してください。と言われながら修正を続けました。
ここで、修正したものを送ってくるわけではなくて、ここがわからないから書き直してくださいと言われたのは、当時は本当に辛く、教えてくれよと思う経験でしたが、今となっては自分で書き方を調べて、考えたからこそ、今に生かされているなと感じました。
先生から言われたのは、研究者を目指すのであれば今後論文を書く機会はいっぱいあり、その時に書けなくなるので、自分で書いてください。と言われました。
ただやはりきついものはキツく、夏頃はご飯も食べられず、胃腸が弱りきっていました。
(個人的に文章書くだけなのに、なんでストレスなんだろうって疑問に思うぐらい不思議ですが、体には応えていたみたいですね。)
なんでここまで辛いのかというと、論文を書いている期間は基本的には実験をやらずに論文を書くことに集中しています。
ただ、学会があったり、授業や私生活など多くのことが押し寄せてきます。
論文でうまく行っていないし、実験も進んでないので何も今はしていないのではないかと思えてきます。特に周りが進んでると。。。
半年に一回あるラボの進捗報告会でも一人だけ全くの進捗がないことの焦り。
そして、極め付けは誰にも相談できないという環境でした。
M1で論文を書くというのはイレギュラーであり、他の人からしたら羨ましいことです。
だからこそ、論文の話題で相談できる相手が研究室におらず、研究に携わっていない人には、文章を書くだけだしと思われるため、理解されずで一人ぼっちでやらなければならないという感覚になりました。
9月ごろ、どうしても辛くプログラムベースの研究を気晴らしにちょっと進めており、国際学会に出すようの小さい論文を書いていました。
それが僕的に結構いい気晴らしであり、研究が進まないという不安が軽減されるとともに、小さい論文なので論文も書きやすく、自分の成長を感じられたとともに成功体験という意味で自信になりました。
そしてそんなこんだで、10月ぐらいには大体の原稿を書き終えました。
そこで、提出だと思っていたら、先生から
「他の先生にも見てもらいましょうか!」と言われ、
「ええええ!!!!????終わりじゃないの????」
と思ったことは今でも記憶に残っています。
見てもらった先生からは、非常に的確なアドバイスをいただき、論文が非常に良くなりました。
論文原稿を人に読んでもらうというのは、非常に重要なプロセスなんだなと体感し、それは論文だけでなく、研究全般に言えることだなと体感しました。
そして、12月に最初の提出(Initial Submission)をiScienceにしました。
iScienceは論文雑誌としては、すっごいランクの高いところではないですが、でもランクが決して低いわけではなく、博士論文なども掲載されるぐらいとてもいいジャーナルです。
僕的には挑戦の枠組みとしてiSicenceを選択しており、7:3で通らない:通る と考えていました。
なので、リジェクトの連絡を待っていたら、全然連絡が来ず、一週間後ぐらいにレビューに回った報告を受け、非常に嬉しく思ったのと同時に驚きでした。
指導教員も驚きだった様です。
そして、レビューのコメントに答えた後、提出し、細かい修正後、正式にアクセプトされました。
提出後は結構流れに沿う感じで、すんなりといきました。
個人的には、最初の提出の段階が一番テンションが上がり、かつ達成感のある瞬間でした。
論文を書くという工程をいかに自分が安易な考えを持っていたのかを実感するとともに、論文を書くという作業はその後の研究の非常にいい経験になることを感じました。
研究者になりたいのならばまず論文を書け!と言われる所以は、成果などではなく、論文を書くという工程が、自身の研究論理立てて、先を見越し、論文を書くという視点を持って進めていくことの重要性を教えてくれました。
さまざまなことを学んだ経験であり、自分の研究者人生の最初として、とてもいい経験ができたと思います。
また後日どの様に論文を書いていったかという、より実務に特化した内容もブログで更新していけたらなと考えているので、楽しみにしておいてください。